最新脳科学が教える高校生の勉強法

早稲田大学を独学で受験したときに読んでいた池谷裕二(いけがやゆうじ)『最新脳科学が教える高校生の勉強法』を久しぶりに読んだので内容をまとめてまいります。

記憶の仕組みを知って効果的に勉強する

この本では記憶の仕組みから説明してくれるので効果的な勉強方法がわかるようになっています。

具体的にどう記憶しているのかというと脳の海馬という部位で「生きるために必要不可欠な知識か」どうかを基準に忘れるか記憶するか選ばれているようです。

人間の脳は起こったことすべてを記憶すると5分でパンクするそうなので、生きるのにいらない記憶は海馬で1か月だけ保存してポイ、生きるのに必要な記憶は大脳皮質で長く記憶するという仕組みになっているもよう。

海馬は脳がパンクしないようにいらない記憶を次々と消していくので池谷先生は忘れたらまた覚え直せばよいと教えてくれます。

要するに忘れてしまったことは、いちいち気にすることなく、また必要になったときにもう一度覚え直せばよいのです。…成績がよい人とは、忘れても忘れてもめげずに、海馬に繰り返し繰り返し情報を送り続けている努力家にほかならないのです。

池谷裕二『最新脳科学が教える高校生の勉強法』株式会社ナガセ、2018年、31ページ

なぜコンピュータのように覚えられないのか

さて、海馬は脳がパンクしないよう生きるのに必要な記憶だけ残しておくことはわかりました。しかし人間もコンピュータのように一度覚えたら正確に覚えられるようにならないものでしょうか。

池谷先生によると「脳はあえてあいまいに記憶している」とのこと。なぜなら生きるためには変化する環境に適応しないといけなかったから。

たとえるのが難しいのですがイノシシを狩るとして急所である心臓・頭・のどを狙うとします。

コンピュータの覚え方だと「心臓・頭・のどのうち一番近い急所を狙う」「イノシシの距離が10mになったら矢を射る」「つねに風下に移動する」とプログラムすることになりますが、イノシシは自由に動きますし風向きが変わっても風下が崖や川になっていて移動できなかったりもします。

一方人間の覚え方だと「心臓・頭・のどを狙う。距離や風向きも大事だけどイノシシと出会ったときの状況で臨機応変に動けばいい」となります。急所は覚えつつも実際に狩りをするときはその場の状況で10mよりも近づいたり離れたり、あるいは正面から頭を狙うのにわざと風上に移動したりもできるのです。

コンピュータのように正確に覚えられるのはチェスや囲碁のように決められた環境で勝負するには有利でも生きるために必要な狩りなどでは応用が効かなくて役に立ちません。だから人間の記憶は「あえてあいまい」なのだそう。

変化する環境の中で動物が生きるためには、過去の「記憶」を頼りに、その場その場で臨機応変にさまざまな判断をしながら生活する必要があります。しかし変化する環境の中で、まったく同じ状況は二度と来ないのがふつうです。ですから、もしも記憶が正確無比だったら、変化を続ける環境の中では、活かすことのできない無意味な知識になってしまいます。だから、記憶には厳密さよりもむしろ曖昧さや柔軟性が必要とされるのです。

同書、115ページ

このことから記憶があいまいなのは「生きるために有利だったから」とわかるので「全然覚えられない!」と落ち込んでいる人は落ち込む必要がないということになります。他人のせいにしてはいけないといっても脳の性質なのでこればかりは脳のせいにしましょう。

効果的な勉強法は日を置いて復習

脳の中にある海馬は脳がパンクしないように「生きるために必要な情報」だけ記憶していることはわかりました。それでは海馬に「これは生きるのに必要だ」と認めてもらうにはどのように勉強したらよいのでしょう。

それは日を置いて復習することです。

海馬は新しく入ってきた記憶を1か月だけ保存して「生きるのに必要か」どうかを判断します。この性質を応用して日を置いて復習することで海馬は「何度も入ってくる情報だから重要に違いない」と判断して大脳皮質に送ってくれるわけです。

具体的には新しいことを学んでから1日後、その1週間後、さらにその2週間後、最後に1か月後と4回復習するのが効果的だと池谷先生が教えてくれています。ただし復習するのは同じ参考書であることが条件。

私はこの復習サイクルを使って勉強したらその1日後、復習したらその1週間後に…とカレンダーに先に書いていました。カレンダーに先に書くことでその日がきたら「今日はZ会の参考書か、大航海時代の問題を復習ね」とわかるので大した努力もなく復習サイクルを回すことができたのでした。

ちなみに寝ることも復習だそう。寝ているときに脳は夢を見ながら記憶を整理しているので寝ることで数学の解法が浮かんだり英語が読みやすくなることもあるようです。私は寝ることで記憶を整理していると意識したことがないので効果はわかりませんが、たしかに良く寝ると前に学んだことを「こういうことでしょ」と頭で整理できている感覚はあった気がします。

睡眠については『スタンフォード式最新の睡眠』などベストセラーが出ているのでいずれまとめてまいります。

そのほか覚えやすくなるテクニック

そのほか海馬の性質を応用して記憶に残りやすくするテクニックも紹介されています。

たとえば興味のあるものは覚えやすい性質を応用して日本史を学ぶ前に大河ドラマを見てみるなど。また感情がからむと覚えやすい性質を応用してたとえばキング牧師の演説を黒人解放の気持ちを込めて音読しながら英語を学ぶなど。

ほかにも空腹や寒さは本能的に危機感を感じるようになっているので空腹や寒さのなかで学んだことは生きるために必要ということで覚えやすいそう。私も勉強中はおかずとみそ汁だけにして暖房は使わなかったです。ただ寒いのでユニクロの服を着込んでひざ掛けとルームシューズを使っていました。

食べ過ぎないと眠くならないですし頭だけ寒くしておくと頭がさえるのでこのテクニックは効果があると思います。

知識記憶と経験記憶

最後は脳の記憶の仕方が年齢で変わってくるというお話です。

中学生までは暗記できたけど高校生になると暗記できなくて頭が悪くなったと感じたことがある人は多いと思います。私も得意の暗記が高校1年の中間テストで通用しなくてボロボロになった経験があります。

池谷先生によると記憶には3種類あるそうです。年齢順にならべていくと方法記憶・知識記憶・経験記憶の3つ。

方法記憶は「うまく説明できないけどやり方は知っている」記憶でたとえば赤ちゃんのハイハイのように言葉で説明できなくともやり方は知っているという記憶です。

次に発達するのが知識記憶。これが暗記に向いている記憶です。だいたい中学生くらいまでは知識記憶が得意なのでなんでもよく暗記します。

しかし高校生になると経験記憶が発達してきます。経験記憶は文字通り過去の経験から覚える記憶で、テストで「この問題は駿台のテキストの80ページくらいでやったことある。あのときお茶の水のスタバで勉強してたな」みたいな記憶の仕方です。

さて、高校生になると暗記ができなくなるのはちょうど知識記憶から経験記憶が得意になる時期だからでして「バカになった」と落ち込むよりも経験記憶で覚えましょうというのがここでのお話になります。

私は受験勉強のときに暗記は捨ててとにかく書いて声に出すようにしていました。英語も世界史も現代文も古文も漢文もとにかく書く。書いて書いてコピー用紙500枚を使い切ってまた買ってくる。読んだ英語はまるでキング牧師になったかのように声に出して読んだり、世界史は国や指導者の興亡を感情をこめて音読したり、現代文と古文と漢文は口角泡を飛ばす勢いで読みまくりました。

すると「あのとき必死こいて読んだやつじゃん」といった経験記憶がたまってきてうまい具合に覚えることができました。しかも経験記憶はいろんな思い出から作られているので思い出しやすい。暗記よりも芋づる式に思い出せるのでド忘れもありません。

この本を読まなかったら勉強法を変えることもなく大学にいくこともなかったでしょう。

出会えてよかった本だと思います。

まとめ

本のタイトルが『高校生の勉強法』となっているので学生や社会人はあまり手にとらないかもしれません。タイトルがもったいないと思うのは私だけではないはず。

池谷先生は脳科学を専門にされているからか本文の合間に色彩心理学などのコラムや読者投稿へのアドバイスを取り入れて意識的に飽きないように構成されています。

また脳科学では専門用語もたくさんありますが池谷先生の筆力で素人でも読み通せる本になっています。

高校生になって勉強ができなくなったと思ってそのまま社会人になった人、それでももう一度勉強してみようかなと思った人なら役に立つ本だと思います。

この記事はあくまでもまとめ、魚でいえば骨の部分なので、身をあじわうのに一度手に取ってみるとやる気がわいてくると思いますよ。


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